赤ちゃんの不思議を解明する
赤ちゃんの行動・脳活動の研究を通して、
ヒトの発達に関する新たな知見を探索し, より良い教育を考える
研究テーマ
Baby affordance: 赤ちゃんの手指運動を促すオブジェクト形状の定量的検討
手指運動の巧緻性が、脳の発達に影響を与えることが知られている[1]。例えば、5~6歳の幼児において手指の巧緻性と計算能力の間に高い相関が示されている [2]。これらのことから、乳幼児期の発達に応じて適切な手指運動を促すことが重要な教育効果をもたらすと考えた。
従来知見では、乳幼児の発達に関する手指運動が定性的に分類されているものの[3-4]、手指運動の対象となるオブジェクト形状に関する定量的な情報は明らかではない。そこで本研究では、アフォーダンスの概念[5]を取り入れ、探索的に様々なオブジェクト形状を作成したり、視聴覚的な環境を操作したりすることにより、赤ちゃんの手指運動を誘発するオブジェクト形状および環境を明らかにすることを目的とする。この研究により、効果的に乳幼児の手指運動を誘発する玩具や器具の開発に貢献することが期待できる。また、精緻な手指運動を行っているときの前頭前野の活動を明らかにすることも試みる。精緻な手指運動が脳の活性化を促し,乳幼児の健やかな発達に寄与することが期待されているが,乳幼児を対象に精緻な手指運動に伴う脳活動を計測した研究は少ない。これは,ヒト脳機能研究で標準技術となっている機能的磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging: fMRI)が,乳幼児研究(特に動きを伴う機能の研究)には適用が難しいためだと推測される。そのため,新生児~乳幼児を対象とした研究実績があり,また体の動きにも比較的強い機能的近赤外分光法(functional Near-infrared Spectroscopy: fNIRS)を用いて,乳幼児の手指運動に伴う脳活動を計測することには意義があると考えた。特に,ここまでの研究で明らかにした物体形状を用いて,その物体に対する手指運動が前頭前野の賦活を促すことを検証できれば,本研究の妥当性を示すことになり,社会実装を後押しする効果が期待される。
[1] 久保田競 「手と脳」 紀伊國屋書店 (2010), [2] 浅川淳司,杉村伸一郎 「幼児における手指の巧緻性と計算能力の関係」 発達心理学研究 20(3), 243- 250(2009), [3]Frankenburg, W.K., Dodds, J.B.: “The Denver Developmental Screening Test”, Journal of Pediatrics, 71 (2), 181-191 (1967), [4] 遠城寺宗徳 「遠城寺式・乳幼児分析的発達検査法―九州大学小児科改訂新装版」 慶應義塾大学出版会 (2009) , [5] ドナルド・ノーマン(著),野島久雄(訳)「誰のためのデザイン? — 認知科学者のデザイン原論」 新曜社(1990)